2010年04月01日

恵みの海 つめ跡深く 津波1カ月、苦境の被災漁業者(河北新報)

 はるかかなたから三陸に押し寄せたチリ大地震津波。襲来から28日で1カ月がたった。各地の浜は落ち着きを取り戻したように見えるが、生活の糧まで押し流された痛手は大きい。復旧に向けて歩み続ける大船渡市と宮城県南三陸町の漁業者たちを追った。

◎養殖施設復旧手つかず/大船渡

 この1カ月、何度も取材で巡った大船渡湾。海産物と施設を津波に奪われた絶望と不安をかき消すかのように、浜は今、出荷期を迎えたワカメの収穫作業で忙しい。

 カキ、ホタテなどの養殖施設計約80基を失った大船渡漁協末崎支所。ワカメの施設だけは湾外にあり、被害を免れた。組合の処理施設には連日、30人前後の老若男女が詰め掛け、塩漬け、水抜き、乾燥化、箱詰めの作業に精を出している。

 「取りあえずは、目の前の収入を確保していく」。収入源のカキで大きな被害を受けた近藤秀昭さん(45)は静かに語った。

 養殖施設の撤去作業はほぼ終わった。ただ、肝心の施設の復旧作業は手付かずのまま。再設置作業について、末崎支所の伊藤毅支所長(58)はワカメ出荷の一段落する時期を見越して「5月ごろに始めたい」と話した。

 大船渡市は津波被害対策として約1億円を予算に計上した。これで施設の再設置に全額補助できるわけではない。漁師の多くは施設の共済に加入していなかった。資金面で持ち出しは避けられない。伊藤支所長は「費用対効果を考えれば、養殖をやめる人もいるはず」と顔を曇らせる。

 防波堤にはまだ、引き揚げられた養殖施設のロープやブイ、カキの残骸(ざんがい)が残る。「先は長い」。伊藤支所長はつぶやいた。(大船渡支局・山口達也)

◎カキ落下、たわむロープ/宮城・南三陸

 宮城県南三陸町戸倉地区は志津川湾の南側に位置する。被害総額は、この地区だけで2億2061万円。町全体の被害額の3分の2を占める。

 打撃が大きかったのは養殖施設。その様子を見るため、カキなどを養殖する村岡賢一さん(59)の船に乗り込んだ。

 一見、湾内は普段の光景を取り戻したかのように映った。多くの漁業者が最盛期を迎えたワカメの収穫に励んでいた。

 目を凝らすと、厳しい現実が至る所にあった。100メートルはあった養殖ロープがたわんで30メートル程度になったり、等間隔に並んでいた施設が絡み合ったり。津波の深いつめ跡は、1カ月では癒えていなかった。

 村岡さんのカキ養殖施設。ロープを引き上げると、今秋に収穫するはずだったカキの3分の1が落ちていた。「被害を受けた3基のうち1基は全滅した。ロープの交換にいくらかかるか」。今年のカキをあきらめ、ワカメに転換した仲間もいるという。

 施設の修復作業は、村岡さんも津波から10日ほどで一段落させた。「生活のためには稼がなきゃならない」。今、ワカメの収穫を終えてから、復旧の準備に取り掛かる。

 50年前のチリ地震津波では、湾内のカキ養殖いかだが跡形もなくなった。村岡さんは「漁師は自然相手の仕事だから打たれ強い。みんな海が好きだから頑張るよ」と前を向いた。(志津川支局・渡辺龍)


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2010年03月31日

時効まで1年、犯人捜す父のビラ配布20万枚(読売新聞)

 息子の無念を晴らすために自分ができること――。それだけを考え続けた14年間だった。

 JR池袋駅で1996年4月、埼玉県春日部市の立教大4年小林悟さん(当時21歳)が男に突き飛ばされて死亡した立教大生殺害事件は、来月11日で殺人罪の公訴時効まで残り1年となる。父・邦三郎さん(64)は勤務先を早期退職、20万枚以上のビラを配り、時には尾行や張り込みまでして犯人を捜す一方、犯罪抑止活動に取り組んできた。今年も事件当日に合わせ、ビラを手に街頭に立つつもりだ。

 悟さんの死の2週間後、邦三郎さんは犯人の似顔絵を載せた手製のビラを3万5000枚用意し、駅のホームや電車内で配り歩いた。目撃した女性が、「息子さんは手を出していない」と証言してくれた。

 事件当日、悟さんはプール監視員のアルバイト仲間とカラオケを楽しみ、自宅に帰る途中だった。中学は野球部、高校はバスケットボール部に所属したスポーツマン。事件に巻き込まれた当時は就職活動中だった。死亡後、悟さんあての資料が企業から届くたび、邦三郎さんの胸は締め付けられた。

 事件の翌月、犯人に似た男を千葉県の柏駅まで追いかけた。「絶対捕まえる」と会社を休み、10日間、始発から終電まで駅とその周辺に張り込んだ。家族の反対を押し切り、有力な情報に1000万円の私費を投じ懸賞金をかけた。情報提供者が現れたのに、警察官が足を運ばずに電話で済ませていたことがわかると、警察に乗り込んで猛抗議したこともある。

 会社帰りの電車で涙がこぼれる日々が3年続いた。そこで気持ちに転機が訪れた。「犯罪抑止に力を尽くそう」。56歳で勤務先の銀行を辞め、その後、犯罪被害者の会を設立した。刑罰の強化や再犯防止などをテーマに活動し、講演に招かれた千葉県の少年院では「再犯しないと誓ってほしい」と、少年の前で土下座をして訴えた。

 政府は3月12日、殺人などの罪の公訴時効を撤廃する内容の刑事訴訟法改正案を閣議決定した。今国会に提出され、成立すれば6月までに施行される。改正案では、殺人や強盗殺人など最高刑が死刑の罪は過去の事件にも適用され、悟さんの事件も時効がなくなる見通しだ。

 邦三郎さんは来年、時効を迎えたら、警察が保管している悟さんの服を抱きしめて15年の区切りをつけるつもりだった。急に持ち上がった時効廃止の議論に、まだ気持ちの整理がつかないという。「息子の事件に時効がなくなることは感謝したい。でも、時効撤廃で犯人が捕まらないことの責任がうやむやにならなければいいが」。邦三郎さんは複雑な思いを語った。

     ◇

 警視庁池袋署によると、犯人は現在、30歳代後半から50歳代半ばとみられ、約1メートル75。事件当時はがっちりした体格で、右目尻に古い傷があったという。池袋駅から山手線に乗り、日暮里駅で降りたとみられる。情報提供は同署(03・3986・0110)へ。

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